――これは、男の娘と少女の物語。
限られた最期の時の中で二人は語り合い、肌を重ね合う……
シリアスな世界観で描かれる純愛ストーリー。



空はどこまでも青かった。
 だが窓は閉められており、風を感じることはできない。
 非常食も水ももうすぐ底を突くだろう。

 2人だけの世界。

 冬夜と朱香はワンルームの部屋で、ただ静かに膝を抱えて待っていた。
 やがて訪れる、その時を――



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 季節は夏を迎えている。

 開いたカーテンの隙間、窓ガラス越しに空を見上げる。

 空はどこまでも青く澄んでいて清々しい。

 まるで、心が体を飛び出して青空の果ての果てまで、遠く遠くどこまでも飛んで行きけそうな自由な気分にさえなれる。

 深く、蒼く、純粋な、太陽が煌々と照らしだす青空。
 この青さはいつまでも変わらないもの。

 永遠。

 自分たちが産まれた昔から今日という日まで。


 ――そして、静寂。

 青空から街へと、ゆっくりと視線を落としていく。

 窓から確認できる情報は以前と大きく変わっていた。

 アパートの目の前には国道に繋がる道路が引かれている。少し前までは自動車が引っ切り無しに通過していた。

 エンジン音がうるさくて何度も夜中に目覚めたものだ。

 今では車どころか人っ子一人見ることもない。整備されたアスファルトの道路が、まるでゴーストタウンの象徴だった。

 家屋がずらりと並ぶ景色だけは穏やかだった。この一帯はどこまでも住宅街が続く。まるで「日常」がこの町の名物であるかのように溢れていた。

 辛うじて変わらないのは、窓の外のベランダに小鳥が時々やってきて、可愛らしく鳴き声を上げることくらいだろう。

 ベランダとほぼ同じ高さにある電線には、今朝もスズメたちが何羽も集っていた。

 階下に住む一人暮らしのお婆ちゃんが、御飯の余りをベランダに出すのを待っているのだ。

 どこまでも清冽な青空と、まだ涼しい朝の大気を湛えている窓の外。

 今では排気ガスが自動車に撒き散らされることもなく、バイクがけたたましさをアピールすることもない。

 この上なく爽快だろう。この部屋の熱と湿気なんか無縁に違いない。新しい1日を過ごすには最高のスタートとなるはずだ。


【冬夜】
「外に出たいな……」



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そしてやがて、二人を待ち受ける必然の運命とは……