啓明女学院について
『啓明女学院』は、明治より続く伝統ある学校法人『啓明会』が起こした新設の女子校である。
そこで行われるのは徹底した女尊男卑の教育。
女性が如何に優秀で社会を支配するに相応しい存在か、男性が如何に醜く愚かで女性に従属すべき存在か、それを幼稚舎から大学まで一貫して教育し、やがては世の中のあらゆる分野において影響力を及ぼす優れた卒業生を世に送り出し続ける事を目的としていた。
今では『啓明会』は、社会全般に対して隠然たる影響力を誇る一大勢力にのし上がっていた。
佐伯真智子
『啓明女学院』の学院長。
啓明会傘下の桜園女学院で幼稚舎から大学までを修了した後、アメリカの名門大学に留学し、MBAを取得すると同時に、理事全員の賛同のもと副理事長として啓明会に迎え入れられた。
誰の目にも真智子の才気と威厳は際だっており、まだ若い彼女に啓明会の将来を託すにあたって、異を唱える者は一人もいなかった。
杉本雅史の憂鬱
佐伯家とは遠縁の親戚にあたる杉本家の一人息子。
家系の都合から教職を目指している大学四年生だが、成績優秀とはいえない上に優柔不断で要領も悪く、六月下旬にになっても教育実習先も見つける事ができなかった。
そんな雅史に声をかけたのが、啓明女学院学院長の佐伯真智子だった。
真智子の甘言に乗せられ、雅史は啓明女学院への教育実習生を喜んで引き受ける事にしたのだった。
教育実習の開始
夏休み明けの始業式の日、雅史は職員室で啓明女学院の教師陣を紹介される。
皆が美しき女性であり、華やかな経歴、優れた研究内容、保有している資格、どれもが雅史を圧倒しており、彼には自分がまるで場違いであるかの様に感じられた。
そして、教育実習最初の授業が始まる。だが、
「もう結構です。杉本先生がご自分の専攻分野に対してどのくらい真剣に向き合っておられるのか、およそのことはわかりましたから」
雅史は生徒達の高い教養レベルに全くついていけずに生徒達の不信を買い、更にはテストでも生徒達に全く敵わないという有様だった。
だが雅史には最早この学校意外に行き場はない、必死に教育実習を続けさせて欲しいと頼み込む雅史。
クラス委員長の山上由奈が提案する。
「では杉本先生には、まず教師ではなく生徒として、私たちと一緒に授業を受けていただくというのはいかがでしょう?」
この日より、雅史の恥辱に満ちた、終わる事のない日々が始まる――